贈与には「生前贈与」「死因贈与」などの種類があり、相続税対策として幅広く活用されています。ここでは、青森県弘前市の司法書士が、生前贈与・死因贈与の概要についてご紹介いたします。
生前贈与
生前贈与とは、その名の通り、被相続人がご健在のうちに、財産を誰かに譲ることです。贈与はいわば契約の一種であるため、「双方の合意」があれば成立します。この点、売買と同じですが、売買は有償であるのに対し、贈与は無償である点が異なります。また、相続と異なる点は、相続は死亡後相続人に財産の権利の移転を行いますが、生前贈与は、存命の当事者が財産の権利の移転を行うことです。
現金はもちろん、不動産を贈与することも可能です。生前贈与を行う際は、「贈与があったこと」を証明するため、贈与契約書を作成してもよいかもしれません。
贈与契約書
贈与は、契約ですので双方の合意があれば成立することは上記のとおりです。もちろん口頭であっても契約は成立するのですが、贈与契約書を残しておいた方が良い場合もあるでしょう。例えば、身内出なく他人から土地や建物を譲り受ける場合や親から子や孫への贈与の場合であっても兄弟の仲が悪く後々問題になる可能性がある場合などは、贈与契約書を作成するとよいでしょう。
贈与契約書の内容は、いたってシンプルで次のとおりです。
- 贈与者(あげる人)の住所氏名
- 受贈者(もらう人)の住所氏名
- 対象となる財産
- 年月日
以上です。
一応申し上げておくと、書面によらない贈与は履行前であれば当事者が解除することができる(民法550条)ことになっています。まだプレゼントしていない段階では気が変わったのでプレゼントしないというのもありだということです。
贈与が必要な場合
不動産の贈与をすると、その登記をする場合、登録免許税、不動産取得税が課税され、場合によっては贈与税が課税されます。これらの税金のため、一般に相続などに比べて贈与は費用の計算をすると高額となる傾向にあります。そこで慎重に行うことをお勧めいたします。
どうしても贈与が必要なよくあるケースは次の通りです。
- 父が死んだ場合離婚した先妻の子供や孫がいるかもしれない
- 住宅ローンを借りて家をリフォーム増改築するが家は父の名義である。
- おじさんの所有の土地に家を建てさせてもらって住んでいたが、叔父が重病を患った。
上記のケースでは贈与をした方がよいでしょう。1のパターンでは相続が発生すれば、問題の子がいた場合、その子が納得する遺産分割方法でなければ手続きが進みません。
2の場合は、借入の名義人と家の名義人が異なると、家の名義人への金銭の贈与とみなされ贈与税が課税される場合を回避するためです。
色々面倒なことで長期的に悩まされるのは大変なストレスになりますので、事前の対応が大切です。
複数人への贈与
上記3の場合によく使われる方法かと思いますが、贈与者(あげる人)が複数の受贈者(もらう人)へ贈与する方法があります。例えば、兄から弟夫婦とその長男へといった具合です。3人でもらうと基礎控除(現在受贈者1人あたり年間110万円までは非課税)が3倍の330万円となるので、贈与税の節税となります。
よく使われる手段です。
暦年贈与
現在、基礎控除は受贈者1人あたり年間110万円なので、年が変わればまたその基礎控除を使って贈与を受けることができます。1年目110万円分、2年目110万円分、3年目110万円分といった具合です。この場合は、基礎控除が働いて非課税となりますので、1年で330万円分贈与するのに比べて節税となります。
あくまでも各年に贈与したくなってもらったということでなければ暦年贈与は成り立ちません。最初の年に、3年間に渡って110万円ずつ贈与するというのは、定期贈与といって1年間に330万円贈与したのと同じ課税関係になるそうです。
暦年贈与を望むなら、間違っても3年間に渡って110万円ずつ贈与しますという贈与契約書を作らないようにしてくださいね。
なお、暦年贈与は相続税対策として選ばれる傾向がありますが、相続開始日前から3年以内に行われた贈与については、相続税の課税対象となります。そのため、相続税対策の一環として生前贈与を行う際は、長期的な視点を持って計画的に行う必要があります。
贈与による所有権移転登記
贈与が決まり、贈与契約書を作成したら、所有権移転登記申請をしましょう。贈与による所有権移転登記申請は、贈与の対象となる不動産の所在地を管轄する法務局で行います。
贈与による所有権移転登記手続きに必要な書類は、下記のとおりです
贈与者の場合
- 実印
- 印鑑証明書
- 登記識別情報または登記済証
- 固定資産課税明細書または評価証明書等
受贈者の場合
- 認印
- 住民票
贈与にかかる税金費用等
令和4年現在、青森県内であれば、贈与にかかる税金や費用は、次の通りですが、税金については、一般的な計算方法を記載いたします。詳しくは、税務署、または税理士さんや県税事務所に相談してください。また、贈与税の申告は税理士さんにお願いしてください。
贈与税 | 時価-基礎控除×贈与税率(区分に応じて) 特例一般で税率が異なります |
---|---|
不動産取得税 | (土地評価額÷2+居住用建物)×3% 非居住用建物の場合税率4% |
登録免許税(印紙代) | 不動産評価額×税率2% |
司法書士報酬 | 司法書士に頼む場合、それぞれが決めた報酬額 |
親子の贈与や夫婦間の贈与の特例
現在、親から子あるいは親から孫へ贈与をする場合や夫婦間で不動産を贈与する場合は、相続時精算課税制度や婚姻期間が20年以上であれば夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除の特例などが使用できる場合がございます。
詳しくは、税務署や税理士さんに相談してください。
- 相続時精算課税の選択
- 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除の特例
また、不動産の贈与とは直接関係ありませんが、住宅取得資金の贈与の特例や教育資金の贈与の特例もございます、詳しくは税理士さんに相談ください。
農地の贈与
農地を贈与する場合、農業員会への届出または農業委員会の許可が必要となる点に注意が必要です。農業員会への届出であれば、1,2週間、農業委員会の許可となると1カ月から数か月、長い物になると1年かかる場合もございます。許可に要する時間は、許可の種類や各農業委員会によって異なりますので、窓口となる農業委員会にお問い合わせください。
主要な許可の種類は次の通りです。
3条の許可 | 農地として耕作する者へ贈与等する場合の許可 |
---|---|
4条の許可 | 農地を転用し自用地として使用する場合の許可 |
5条の許可 | 農地の転用して使用する者へ贈与等する場合の許可 |
許可という名前の通り誰しもどんな場合も許可が出るわけではなく、様々な条件があります。農地の贈与の話を進めていったが農業委員会の許可が出なかったというのは、よくある話です。
農地の贈与の場合、事前に、農業委員会の許可の条件を満たすか、農業委員会で確認した方がよいでしょう。
農地の贈与の場合の相談の流れは、おおむね下記のとおりです。なお、農業委員会へ出向いて手続きを行う場合は、実印、印鑑証明書、不動産の登記事項証明書(登記簿)を持参した方がよいでしょう。
- 司法書士事務所で贈与の相談
- 農業委員会で手続き(各自で行っていただきます。)
- 許可後、司法書士事務所で書類作成及び押印
- 司法書士が登記申請手続き
- 完了後権利証等をお渡しする
死因贈与
死因贈与とは「私が亡くなったら長男に土地を贈与する」というように、被相続人の死亡により効力が発生する贈与のことです。死因贈与もあくまで契約の一種であるため、双方の合意が必要となります。すなわち、受贈者側(受け取る側)が「もらいます」と承諾しなければ、死因贈与の効力は発生しません。この点が、財産を受け取る側に秘密でもよい遺言とことなります。
死因贈与のメリットは、事前に内容を受贈者に知らせることができること、条件等をつけられること、仮登記ができることなどがメリットとしてあげられますが、手続面や税制面を考慮し、実務ではあまり利用されていないのが現状です。
もし、死因贈与契約をするなら、公正証書で行うことをお勧めいたします。
なお、死因贈与と似たような方法として「遺贈」がありますが、遺贈との大きな違いは「不動産取得税」です。
死因贈与の場合は不動産取得税がかかり、遺贈の場合は不動産取得税がかからない場合が多いです。