相続と遺言

相続と内縁

相続と内縁

1. 戸籍に記載されないパートナーに相続権はあるのか?

1-1. 「法律婚」と「事実婚」の法的な違いとは

日本における婚姻は、戸籍法に基づいて届け出を行い、戸籍に夫婦として記載される「法律婚」が原則です。一方で、婚姻届けを提出せず、社会通念上夫婦同様の共同生活を営んでいる関係は「事実婚」や「内縁」と呼ばれます。内縁関係は、婚姻と同様の実体(同居・協力・扶助など)がある場合に認められますが、戸籍に記載されないため、法律婚とは異なり相続において法的な扱いが変わります。

1-2. 内縁関係にあるパートナーの相続上の立場

民法上、相続人とされるのは「配偶者」と一定の親族(子、親、兄弟姉妹など)に限られています。この「配偶者」は法律婚の関係を前提とするため、内縁の配偶者には相続権がありません。そのため、内縁関係のパートナーに財産を残したい場合は、通常の相続制度とは別の手段を講じる必要があります。

2. 事実婚パートナーに財産を遺すための現実的な方法

2-1. 相続ではなく「贈与」として財産を移すケース

生前に財産を渡したい場合は「贈与契約」によって行うことができます。ただし、高額な贈与については贈与税が課される可能性があるため、税理士などの専門家によるアドバイスを受けることが望まれます。

2-2. 遺言書によって遺贈の意思を明確にしておく

遺言書を作成することで、内縁のパートナーに財産を「遺贈」することが可能です。自筆証書遺言や公正証書遺言を使って、明確に遺贈の内容を記載しておくことが重要です。なお、法定相続人の遺留分を侵害しない範囲で遺贈することが推奨されます。

2-3. 相続人がいない場合に備える「特別縁故者」制度

被相続人に法定相続人がいない場合、一定の条件を満たせば「特別縁故者」として家庭裁判所に申立てを行うことで、財産の一部または全部を受け取ることができます。

この制度を利用するには、以下のような手続きが必要となります:

  1. 相続財産管理人の選任: まず利害関係人や検察官の申立てにより、家庭裁判所が「相続財産管理人」を選任します。これにより、相続財産の管理・清算が始まります。
  2. 公告手続き: 相続財産管理人は、相続人の捜索を公告(官報などでの告知)によって行います。公告期間は原則として6か月以上です。
  3. 相続人不存在の確定: 公告期間が経過しても相続人が現れない場合、家庭裁判所が「相続人不存在」の確定を出します。
  4. 特別縁故者による申立て: 相続人不存在確定後、被相続人と生前に特別な関係があった者(例:内縁の配偶者、長年同居していた者など)は、家庭裁判所に対して「相続財産の分与の申立て」を行うことができます。
  5. 裁判所による審査と分与決定: 家庭裁判所は、申立人が被相続人に対してどのような貢献や扶養実績があったかを審査し、相続財産の全部または一部の分与を決定します。

この制度は、法定相続人がいない場合に限定され、しかも裁判所の厳格な判断を経る必要があるため、必ずしも確実に認められるわけではありません。しかし、内縁関係にあった人にとっては数少ない財産取得の手段であるため、必要に応じて専門家の助力を得ることが重要です。

3. 事実婚カップルでも可能な財産保全の法的対策

3-1. 任意後見契約や財産管理契約の活用

高齢になって判断能力が低下した際に備えて、「任意後見契約」や「財産管理契約」を結んでおくことで、内縁のパートナーが財産の管理・生活の支援を行いやすくなります。これらの契約は公正証書で作成され、法的拘束力を持つため、第三者とのトラブルを防ぐ効果もあります。

3-2. 死後事務委任契約により希望を実現する

内縁関係にある相手に、自分の死後の手続きを任せたい場合は「死後事務委任契約」が有効です。葬儀、納骨、遺品整理などの具体的な事務内容を契約に定めておくことで、死亡後の手続きの混乱を避けることができます。

4. 実際のトラブルを避けるためにできる準備とは

4-1. 法的リスクを事前に洗い出し対策を講じる

内縁関係では、相続争いや第三者との権利主張でトラブルになる可能性が高いため、生前から以下のような準備を整えておくことが重要です。

  • 財産の分配方法を明確にした遺言書の作成
  • 重要な書類の所在を相手に伝えておく
  • 互いに任意後見契約を締結する

4-2. パートナーの生活保障に必要な書面と手続き

生命保険の受取人指定や、家屋の使用貸借契約の作成、金融機関の手続きの代理権授与など、パートナーが生活を継続できるようにするための対策も重要です。これらを怠ると、残されたパートナーが住居を失ったり、財産管理に関与できない事態を招きかねません。

5. 法的保護を受けるには専門家のサポートが不可欠

5-1. 司法書士・弁護士・行政書士の役割と選び方

状況に応じて適切な専門家を選ぶことが重要です。

  • 遺言書作成・登記関係:司法書士
  • 契約書作成・死後事務契約:行政書士
  • 法的紛争や相続調停:弁護士

専門家の連携がとれている総合事務所を選ぶと、円滑に対応が進められます。

5-2. 相続対策としての「生前の準備」の重要性

内縁関係において財産を守り、相手の生活を保障するには、「生前の準備」がすべての鍵となります。万が一に備えた法的書面の整備と専門家への相談が、安心できる老後と円滑な死後手続きにつながるのです。

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