遺言と相続

遺言とは、人が生きているうちに、自分が死亡し相続が発生する時、その遺産財産を誰に渡すかを書類にする行為です。

実務上、遺言書を書いておいた方がよいケースは次の通りです。

  • 夫婦に子供がおらず、兄弟や甥姪が相続人となりそうだ。
  • 夫が2回目の結婚で、先妻のこの存在が気になる
  • 息子達の仲が悪く、財産の分配をあらかじめ決めた方がよい
  • 商売をやっているので事業用資産を死亡後速やかに長男に相続させたい
  • 長男が先に他界しており、よく世話をしてくれた長男の嫁(相続人でない)に財産を譲りたい

もっとも上記の場合でなくても、近年は、遺言書を作成する人は増えています。

遺言は、書類にすればどのようなものでもよいというわけではなく、遺言の方式や種類によって形式が定められており、その形式に従わない場合は、無効と判断されてしまいます。

遺言の方式と種類

遺言の方式は、「普通方式」と「特別方式」に分かれています。

普通方式

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

特別方式

  • 危急時遺言(一般臨終遺言・難船危急時遺言)
  • 隔絶地遺言(一般隔絶地遺言・船舶隔絶地遺言)

特別方式の遺言は、病気や怪我で死期が近い場合や、伝染病で隔離されている場合などのやむを得ない状況で行う例外的なものです。

実務上、特別方式の遺言が作成されることはかなり稀で、通常、遺言と言えば、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の2種類です。「秘密証書遺言」も作成されることはほとんどありません。

自筆証書遺言

遺言者本人が自筆で作成する遺言書です。筆記具と紙さえあればいつでも作成でき、費用もかかりません。自分だけで作成できるので、遺言内容を秘密にしておけるのが利点です。

自筆証書遺言を作成するためには、次の4つの形式を必ず守る必要があります。

  • 全文を自筆で書く
  • 日付を書く
  • 署名する
  • 押印する

この4つだけですが、1つでも欠けるものがあると有効な遺言とならない可能性が非常に高いです。

自筆証書遺言の例

まず、全文を自筆で書かなければなりません。鉛筆書きはダメですとう規定はありませんが、ボールペンや万年筆で記載した方が良いでしょう。ワードやエクセル、ワープロで書いたものは無効です。

続いて、日付も書かなければなりません。和暦でも西暦でも日付が特定できれば大丈夫ですが、「令和4年2月吉日」は無効とされています。

最後に署名押印をする必要があります。署名なのでもちろん自筆で行います。押印は、どのような印鑑でもよく、拇印でもよいとされています。

全文を自筆で書くというのが、自筆証書遺言のハードルの高い原因です。間違いをした場合、その訂正方法は明確に定められていますが、一般の方には難解で、結局は、全文書き直した方がよいでしょう。

令和2年7月10日、「自筆証書遺言保管制度」がスタートいたしました。その制度を利用した場合、自筆証書遺言であっても、財産についての目録(相続財産目録)については、パソコンやワープロで作成し、印刷したものでもよいこととなりました。ただし、相続財産目録それぞれに署名押印が必要となります。

自筆証書遺言保管制度によって、自筆証書遺言に対する期待が高まっています。従来の自筆証書遺言と保管制度との大きな違いは、遺言者が死亡した時、遺言書の検認手続きが必要となるかです。従来の自筆証書遺言では、検認手続きが必要でしたが、保管制度を利用した場合不要です。

自筆証書遺言と相続登記

遺言者が死亡し、相続が発生し、自筆証書遺言を使って各種相続手続きをしようとする場合は、まず、家庭裁判所での遺言書の検認手続きが必要です。ただし、自筆証書遺言保管制度を利用して遺言書を作成された場合、検認の手続きは不要です。

検認手続きから相続登記や預貯金の解約などの各種相続手続きまでの流れは、およそ次の通りです。

  1. 遺言書検認申立に必要な戸籍等収集
  2. 家庭裁判所へ遺言書検認申立
  3. 検認期日
  4. 遺言執行者の指定
  5. 相続登記や預貯金の解約

まず、遺言書件申立に必要な戸籍等収集をする必要がありますが、これが面倒となることも多いです。遺言書を作成するのは、子がいない場合で法定相続人が遺言者の兄弟姉妹の場合や家庭環境が非常に複雑な場合なども多いです。これらの場合、収集する戸籍等が非常に多くなります。収集に1カ月以上かかることも少なくありません。自筆証書遺言の第2のハードルと言えるでしょう。

必要書類がそろったら申立書を作成し、家庭裁判所に提出します。必要書類の作成は、司法書士、弁護士などの専門家に頼んでも良いでしょう。提出先の家庭裁判所は、遺言者(死亡した人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。

しばらくすると検認期日が指定され、申立人は検認期日に出頭することになります。また、相続人全員に検認がある旨、立ちあることができる旨が通知されます。この点は、ハードルと言わないまでも、申立人にとっては不安要素となるでしょう。

検認期日では、封のされた遺言書であれば、開封され、遺言書の形式がチェックされます。形式とは先に述べた、「自書」「日付」「署名」「押印」4つのことです。このうち一つでも欠ければ無効と判断される可能性が非常に高いです。

このことは、自筆証書遺言の第3のハードルと言えるでしょう。せっかく何カ月もかけて書類を集めて申立てをしたのに、開封した結果、無効でしたというのはかなり酷です。

検認が無事終わり形式的に有効な遺言と認められた場合、その遺言を使って各種相続手続きができる可能性があります。各種相続手続きを行う前に、その遺言書に遺言執行者の指定があるかどうかを確認しましょう。遺言執行者が必ず必要となるわけではありませんが、金融機関では、遺言執行者の選任を求めてくる場合が少なくありませんので、あらかじめ遺言執行者選任手続きをしておくことをお勧めします。

遺言執行者の選任も終わると、いよいよ相続登記や預貯金の解約などの各種相続手続きを行うことができます。

相続登記や預貯金の解約などの各種相続手続きに必要な書類は、おおむね次のとおりです。

  • 自筆証書遺言(検認済証明書付)原本
  • 遺言者(死亡人)の戸籍
  • 遺言者(死亡人)の除票(住民票)
  • 名義人となる相続人の戸籍・住民票
  • 評価証明書(相続登記の場合)
  • 名義人となる相続人の印鑑証明書(預貯金の解約等の場合)
  • 検認調書(預貯金の解約等の場合で必要となる時があります)

自筆証書遺言の注意点

自筆証書遺言の注意点は、遺言が形式的に有効であることと、法的に有効であることは違うということです。遺言の形式とは、先に述べた、「自書」「日付」「署名」「押印」4つのことです。これを満たしていれば、何が書いてあっても検認手続きで形式的に有効な遺言とされます。内容は関係ないのです。例えば、「私が死亡した後もみんな仲良くやってほしい。」などと書かれていても、形式的には有効な遺言となります。ただ、法的には意味を為しません。相続人でない者に対して相続させる遺言などは、救済措置がとられ、無効とはならないとされていますが、結局、第一義的には、法務局や金融機関などの判断になります。法的無効とされ、納得がいかない場合は、法的手続きに及ぶこともできますが、時間と費用を要します。

形式面だけでなく、法的に有効な遺言を書くことが、自筆証書遺言の第4のハードルと言えるでしょう。

自筆の遺言を書いたら、司法書士、行政書士、弁護士などの専門家に相談してもよいでしょう。

自筆証書遺言保管制度

自筆証書遺言保管制度を利用すれば、死亡後の遺言書検認手続きが不要となるため、4つのハードルのうち、2つは解消されることとなります。自筆でなければならないことは従来と同じですが、法的有効かどうかは実質的に法務局でチェックをしてもらえますのでハードルのうちまた1つは解消されます。よって自筆証書遺言保管制度を利用すれば、4つのハードルのうち3つは解消されることになりますので、大変有効であると思われます。

自筆証書遺言保管制度では、出頭が必要ですが、遺言の内容の相談や書類の作成は司法書士が行ってよいこととなっております。ぜひ、ご相談ください。

自筆証書遺言保管制度の詳しい手続き方法は別の機会に説明したいと思います。

公正証書遺言

公証人に作成してもらう遺言書です。公証役場で証人2人以上の立会いのもと、本人が遺言内容を口述し、それを公証人が記述して作成します。原本は公証役場で保管されるため、紛失や偽造の心配がなく、法的に最も安全で確実な遺言書です。相続争いの防止にも有効ですので、専門家の助けを借りながら、公正証書遺言を作成しておくことをおすすめします。

なお、当事務所では、業法上の観点から、公正証書遺言の証人として公正証書遺言の作成をアドバイスサポートする役割を担うこととしております。遺言の内容を公証人役場に伝えたり、公証人と打ち合わせをすることは司法書士の立場では業法上出来かねます。証人としての出頭手数料のみをいただいております。

公正証書遺言を作成するためには、次の4つの形式を必ず守る必要がありますが、公証人が段取・確認を行いますので、漏れがあることはありません。

  • 公証人役場へ証人2人と出頭
  • 遺言者が遺言の内容を公証人に口で伝える
  • 公証人が内容を筆記し、読み聞かせるか見せる
  • 遺言者及び証人並びに公証人が署名捺印

公正証書遺言の場合、公証人の関与で作成されますので失敗がほとんどありませんし、検認手続きも必要ありません。また、公証役場で原本が保管されますので、無くしても再発行が可能です。

実務上は、公正証書で遺言書を作成することがほとんどです。

公正証書遺言と相続手続

遺言者が死亡し、相続が発生し、公正証書遺言を使って相続登記や預貯金の解約など各種相続手続きをする場合、遺言書の検認も不要ですし、遺言執行者の指定がされている場合も多いので、すぐ各種相続手続きに入ることができます。

各種相続手続きに必要な書類は、遺言書のほかは、自筆証書遺言の場合と同様です。

遺言書の内容その他

遺言書の内容とすることができるもののうち、相続財産の分配以外で、実務的に使われることがあるものは下記のとおりです。

  • 遺留分減殺方法の指定
  • 遺言執行者の指定
  • 第三者への遺贈
  • 寄付
  • 信託の設定

専門的な内容は避け簡単に説明いたしますと、「遺留分減殺方法の指定」は、長男だけ相続することに次男が腹を立て遺留分を請求してきた場合に次男が相続する財産をあらかじめ決めておく行為です。「第三者への遺贈」は、相続人でない第三者へ財産を譲りたい場合にする行為です。

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