相続と遺言

不動産売買と相続

不動産売買と相続

不動産の売却は、人生においてそう何度も経験するものではありません。特に、相続によって取得した不動産を売却する場合には、通常の売却とは異なる手続きや注意点が数多く存在します。この記事では、亡くなった方名義の不動産の売却は可能か、不動産売却の全体的な流れ、宅建業者や司法書士の関わり、そして注意すべき点について解説します。

死亡した人名義で売却できるか

まず結論から言えば、被相続人(亡くなった方)の名義のままでは不動産を売却することはできません。不動産登記制度においては、名義人が誰であるかが明確である必要があり、買主側も安全な取引を望むため、相続人に名義変更されていなければ売買契約そのものが成立しません。

また、不動産登記制度は、権利の取得経緯を正確に反映されることを要求するので、相続登記を省略して、死亡人名義から買主に直接名義変更することは不可能です。

そのため、相続人が不動産を売却するには、まず被相続人名義の不動産を相続登記によって自分たちの名義に変更する必要があります。この手続きは、単なる形式的な作業ではなく、相続関係を確定し、登記記録に反映させるための重要なプロセスです。

不動産売却の流れ

不動産を相続し、売却するまでの流れはおおよそ次の通りです。

  1. 遺産分割協議の実施(相続人間での話し合い)
  2. 相続登記の申請(名義を相続人に変更)
  3. 不動産の査定(宅建業者に依頼)
  4. 媒介契約の締結(不動産会社と契約)
  5. 売却活動(広告・内見対応など)
  6. 売買契約の締結(買主と合意)
  7. 引渡し・所有権移転登記・代金受領

このうち、最も時間がかかりやすいのが、相続登記と遺産分割協議です。特に相続人が多数いる場合や、行方不明の相続人がいる場合などは協議の成立までに長期間を要することがあります。

宅建業者に司法書士を紹介してもらう

不動産を売却するには、名義変更を含む登記手続きが必要ですが、その際には司法書士のサポートが不可欠です。多くの宅建業者(不動産会社)は、提携している司法書士を紹介してくれますので、相続登記の相談も併せて行うことが可能です。

司法書士を探す手間が省けるだけでなく、実務に長けた専門家が関与することで、売却手続きがスムーズに進む傾向があります。特に相続関係が複雑な場合や、登記情報が古いまま放置されているような物件では、専門家の知見が不可欠となります。

売却における宅建業者の役割

不動産の売却において宅建業者は極めて重要な役割を果たします。具体的には次のような業務を担います。

  • 物件価格の査定
  • 販売戦略の立案(ターゲット選定、広告出稿)
  • 買主候補との交渉・内見対応
  • 売買契約書類の作成・調整
  • 決済・引渡し手続きのサポート

また、相続による売却の場合は、遺産分割協議書の写しや戸籍一式などが必要となるため、相続手続きと売却手続きの整合性を取るための助言を行ってくれることもあります。売主が遠方に住んでいたり、日中の連絡が困難な場合でも、窓口となって進行を管理してくれるため、精神的・時間的な負担を軽減できます。

当事務所では、宅建業者、不動産仲介業者をご紹介することも可能です。お気軽にご相談ください。

売却における相続登記の流れ

相続登記を経て売却するまでの登記手続きには、以下のステップがあります。

  1. 戸籍・住民票の収集:被相続人の出生から死亡までの戸籍や、相続人全員の戸籍謄本・住民票を取得します。
  2. 遺産分割協議書の作成:相続人間で誰が不動産を相続するかを合意し、協議書を作成。
  3. 相続登記の申請:司法書士を通じて、法務局に登記申請を行います。
  4. 売却のための登記準備:所有権移転登記の準備、登記済権利証の確認。
  5. 売買契約・決済:名義変更後に買主との契約を締結し、登記・引渡しを行います。

登記手続きには通常数週間を要しますが、相続関係が複雑であったり、必要書類の収集に時間がかかると、それ以上かかる場合もあります。特に遠方の市町村に戸籍がある場合や、改製原戸籍の取得が必要な場合には注意が必要です。

注意点:直前だとあせる

相続不動産を売却する際に多くの人が陥る失敗は、売却が決まってから慌てて手続きを始めるというパターンです。内見が入った、買主候補が現れた、という段階になってから相続登記の準備を始めると、必要書類が間に合わず、取引に支障をきたす恐れがあります。

売却を検討しているのであれば、まずは相続登記を完了させておくことが重要です。名義が自分に変わっていない状態では、法的にも第三者に対して売却の効力を主張できません。また、金融機関の融資が絡むケースでは、名義が整っていないことで審査が進まない場合もあります。

わからない相続人が判明した場合は大変なことになる

相続登記を行う際には、相続人全員の同意が必要となります。そのため、「知らない相続人がいた」「認知されていた子がいた」などのケースが発覚すると、手続きがストップする可能性があります。

特に注意すべきは次のようなケースです:

  • 被相続人に婚外子がいた
  • 認知された子が後から判明した
  • 養子縁組していたが知らされていなかった
  • 離婚歴があり、前婚の子が存在する

こうした場合、すべての法定相続人と連絡を取り、協議を行わなければなりません。連絡先が不明な場合には家庭裁判所の調停や、不在者財産管理人の選任といった法的手段を取る必要があります。時間と費用、精神的労力を考えると、相続関係の確認は早期に行うことが極めて重要です。

こうなってくると、実務上、売買はご破算となる場合も少なくありません。注意が必要です。

まとめ

不動産の相続と売却は、専門的な知識と段取りが必要な複雑なプロセスです。名義が被相続人のままでは売却はできず、相続登記を経たうえで取引が可能となります。また、登記や売却に関しては、宅建業者や司法書士との連携が不可欠です。

「いつか売るつもりだった」ではなく、「すぐには売らなくても、登記だけは済ませておく」ことが、後のトラブル防止につながります。もし相続が発生した場合には、できるだけ早く不動産の状態や相続人の範囲を確認し、信頼できる専門家に相談するようにしましょう。

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